勤怠管理システムを入れた。打刻は集まっている。労働時間の集計も出る。
それでも様式9は、月末に担当者が手作業で作っている — 病院ではよくある光景です。
この記事の結論
勤怠管理システムと様式9は、数えているものが違います。勤怠が数えるのは労働時間の実績、様式9に要るのは施設が決めた夜勤時間帯の枠で切り、病棟ごとに配賦した勤務時間です。
残業の扱いにいたっては正反対です。勤怠は残業を必ず数えますが、様式9の勤務時間に残業は入れません。打刻データから様式9が自動で出てこないのは、製品の欠陥ではなく制度の構造です。
様式9がほしいのは「実績」— ここは勤怠と同じ
様式9(入院基本料等の施設基準に係る届出書添付書類)には、届出前1か月の勤務実績を書きます。予定表ではなく実績です。
だから「勤怠システムには実績がある。ならそこから出るはずだ」という期待は、入口としては正しいのです。実績という点では、シフト表(予定)より勤怠データのほうが様式9に近い。
問題は、その先です。以下、制度の内容は令和8年3月5日 保医発0305第7号(令和8年6月1日適用)によります。なお様式9は医科の入院基本料等の届出書類で、介護保険施設の勤務形態一覧表は別制度の別様式です。
食い違い1 — 残業と休憩の扱いが逆転する
勤怠管理システムの中心の仕事は、労働基準法上の労働時間を正しく数えることです。残業は1分単位で積み、休憩は労働時間から外します。
様式9は逆です。勤務時間数に残業時間は入れません。一方で通常の休憩時間は入れます。
つまり、勤怠システムが最も正確に数えている2つの数字が、様式9では両方とも「そのまま使えない」ことになります。打刻ベースの実労働時間を様式9に流し込むと、残業のぶん過大に、休憩のぶん過少に、二重にずれます。
有給休暇も、様式9の勤務時間には入れません。逆に、院内感染防止対策委員会や医療安全の職員研修など、特定の委員会・研修の時間は病棟勤務に入れられます。勤怠データのどこにも「この会議は様式9に入る種類か」という区別はありません。
食い違い2 — 「どこで働いたか」を勤怠は持っていない
様式9の勤務実績表は職員1人につき3段あり、書き分けの軸は場所です。
- 上段 … 日勤時間帯の勤務時間
- 中段 … 夜勤時間帯に当該病棟で勤務した時間
- 下段 … 病棟以外を含む総夜勤時間数
夜勤72時間の計算に入るのは中段、つまりその病棟にいた時間だけです。外来や手術室で夜間に働いた時間は、下段には入っても中段には入りません。
ところが打刻機は、出勤と退勤の時刻を記録するだけで、16時30分から20時30分までは外来、そのあと病棟という中身を知りません。病棟と外来を兼務する職員は、夜勤時間帯の病棟勤務分だけを取り出して按分し、0.75人のような小数の人数として分母に算入します。この配賦のもとになる情報が、勤怠データには最初から存在しないのです。
食い違い3 — 時間の切り方が違う
勤怠は暦日や所定労働時間で時間を切ります。様式9は、施設が決めた「22時から翌5時を含む連続16時間」の夜勤時間帯で切ります。
16時30分〜翌8時30分に枠を置いた施設なら、16時30分に始まり翌朝9時に終わる夜勤は、当日7.5時間・翌日8.5時間に分けて書きます。この枠は施設ごとに違ってよく、どこに置いたかで以降のすべての数字が変わります。汎用の勤怠システムがこの枠を設定として持っていなければ、そもそも切り出せません。
申し送りの時間も独特です。労働時間としては当然勤務ですが、様式9では申し送った側の夜勤時間から除いてもよいことになっています。ただし除く・除かないは病棟全体で月単位に統一が原則です。人によって、日によって変えることはできません。
食い違い4 — 様式9は人を選ぶ
勤怠は全職員を等しく数えます。様式9は数える人を選びます。
夜勤専従者や、月の夜勤時間が一定未満(急性期系の病棟では16時間未満など)の人は、72時間の計算では分母からも分子からも外します。看護補助者の夜勤時間はそもそも72時間の計算に入りません。外来・手術室の専従者や長期欠勤者のように、勤務実績表に載せない人もいます。
誰を数え、誰を外すかは職員ごとの属性と当月の実績の両方で決まります。このあたりの数え方の詳細は夜勤72時間ルールは、誰を分母に数えるのかにまとめました。
対照表 — 勤怠管理と様式9
| 論点 | 勤怠管理システム | 様式9 |
|---|---|---|
| 数える目的 | 労働時間の管理(労基法) | 施設基準の届出(診療報酬) |
| 残業 | 必ず数える | 入れない |
| 休憩 | 労働時間から外す | 入れる |
| 場所の区別 | 原則持たない | 病棟ごと・中段/下段を書き分け |
| 兼務 | 合算で足りる | 病棟分だけ按分(人数が小数になる) |
| 時間の切り方 | 暦日・所定時間 | 施設が決めた夜勤時間帯16時間の枠 |
| 対象者 | 全員 | 夜勤専従者などを除外・載せない人もいる |
こうして並べると、勤怠データから様式9への道のりは「出力形式の変換」ではなく、別の物差しでの数え直しだと分かります。勤怠管理システムに様式9出力がない、あっても手直しが要る、というのは自然なことなのです。
では、どちら側から作るのが素直か
様式9に要る情報 — どの職員がどの病棟に属し、夜勤時間帯の枠がどこにあり、その枠の中でどの病棟に何時間いたか — を最初から持っているのは、勤怠データではなく勤務表の側です。
わたしたちが作っている Nafty は、この考え方で様式9を扱っています。部署ごとの勤務表と実績から集計して、様式9をExcelとして出力します。組んでいる途中の予定シフトからは月平均夜勤時間数の見込みを常時出しているので、月末に集計して初めて72時間超過に気づく、という順番を逆にできます。
ただし現時点では、1日平均入院患者数と配置区分は手入力ですし、平均在院日数は外部システムの値を入れていただく必要があります。地域包括ケア病棟には未対応です。全部が自動になるわけではありません。
様式9のExcelフォームを配布しています
いまお使いの様式9が古い版の場合のために、令和8年度版の様式9 Excel を無料で配布しています。勤務実績を入れると月平均夜勤時間数が自動計算される、5シート構成のものです。施設名・ご担当者名・メールアドレスの記入で、その場でダウンロードできます。
まとめ
勤怠管理システムから様式9が出てこないのは、どちらかが悪いのではなく、数えているものが違うからです。
残業と休憩の扱いは逆転し、病棟への配賦は勤怠データに存在せず、時間は施設ごとの夜勤枠で切り直し、数える人も選び直す。この4つの食い違いがある限り、打刻データの変換だけでは届きません。
様式9を楽にしたいなら、勤怠の側に機能を足すより、病棟と夜勤枠を最初から知っている勤務表の側から出す。それがわたしたちの答えです。