看護職員の離職率は、下がっていません。
日本看護協会の「2025年病院看護実態調査」によると、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%。ここ数年、おおむね11%前後で横ばいです。
この記事の結論
定着の施策というと、面談・手当・ラダーの話になりがちです。ただ、職員全員に毎月必ず届く「働き方の現物」は勤務表です。面談は年に数回でも、勤務表は月に1枚、全員に配られます。
そして勤務表には、数えれば見える点検項目があります。夜勤の連続、連勤の長さ、勤務間隔、そして偏り。この記事では、定着の話を勤務表の上に降ろして整理します。
看護師の離職率は11.0% — 平均より、辞め方の中身を見る
11.0%という全国平均より、内訳のほうに情報があります。同じ調査で、離職率は採用の種類によって大きく違います。
| 区分 | 2024年度の離職率 |
|---|---|
| 正規雇用看護職員(全体) | 11.0% |
| 新卒採用者 | 8.4% |
| 既卒採用者 | 16.1% |
いちばん高いのは既卒、つまり中途で入った人です。およそ6人に1人が1年以内に辞めています。
新卒には教育計画があり、周囲も「新人だから」と見ます。中途採用者は即戦力として扱われ、いきなり通常の勤務ラインに入ります。最初の月の勤務表で夜勤が続き、希望がほとんど通らなければ、「この職場はこういう場所だ」という判断材料はそれで揃ってしまいます。
入職後の最初の数か月の勤務表は、その人が最初に受け取る待遇の現物です。ここが荒れている施設で、面談だけで定着を語るのは順番が逆かもしれません。
勤務表の何が人を消耗させるのか
「シフトがきつい」を分解すると、勤務表の上で特定できる形になります。
数えれば見える3つ — 職能団体が基準を出している
日本看護協会は「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」で、勤務編成の基準を11項目示しています。そのうち勤務表の並びだけで点検できる代表が、この3つです。
基準2 勤務間隔 — 勤務と勤務の間隔は11時間以上あける。
基準4 夜勤の連続回数 — 夜勤の連続回数は、2連続(2回)までとする。
基準5 連続勤務日数 — 連続勤務日数は5日以内とする。
これらは推奨であって法令ではありません。ガイドライン自身も、11項目すべてを一度に満たす必要はなく、各施設で優先順位を決めて進めるものだと明記しています。ただ、健康リスクの知見を職能団体がまとめた数字なので、自施設の現在地を測る物差しとしては十分に使えます。
長い連続勤務については、行政側の資料にも重い記述があります。厚生労働省の労働基準関係法制研究会報告書(令和7年1月)は、労災の精神障害の認定基準で2週間以上にわたる休日のない連続勤務が心理的負荷の出来事として扱われており、実際に支給決定された事案があると述べています。連勤は疲労の話であると同時に、メンタルヘルスの話でもあるということです。
このあたりの制度の細かい現在地は、別の記事で整理しています(連勤は何日まで組んでいいのか、勤務間インターバル11時間の点検)。
数えないと見えない2つ — 偏りと、確定の遅さ
基準に出てこないけれど、退職面談でよく語られるのがこちらです。
ひとつは偏りです。夜勤の回数、土日の出勤、希望の通り方。月ごとの絶対量より、「私ばかり」という比較のほうが人を消耗させます。厄介なのは、偏りは1か月の勤務表を眺めても見えないことです。3か月、半年と数えて並べて初めて見えます。数えていない施設では、本人だけが数えていて、管理側が気づいたときには退職願と一緒に出てきます。
もうひとつは確定の遅さです。勤務表が月末ぎりぎりに出る職場では、職員は翌月の予定を何も入れられません。保育園の送り迎え、通院、家族の予定。勤務表の発表日は、職員から見れば生活の設計図が手に入る日です。ここが遅い・確定後によく変わる、というのは、表そのものの中身と同じくらい効きます。
「定着のためにシフトを良くする」は、点検表にできる
ここまでを、管理者が自施設で使える形にまとめます。
| 点検項目 | 見る場所 | 目安 |
|---|---|---|
| 夜勤の連続 | 勤務表の並び | 2連続まで(ガイドライン基準4) |
| 連勤の長さ | 勤務表の並び | 5日以内(ガイドライン基準5) |
| 勤務間隔 | 勤務の終了時刻と次の開始時刻 | 11時間以上(ガイドライン基準2) |
| 夜勤回数の偏り | 個人別の月次集計を数か月分 | 説明できない差がないか |
| 希望の通り方の偏り | 希望と確定の突き合わせ | 特定の人だけ通っていないか |
| 確定の早さ | 発表日と月初の間隔 | 施設として日付を約束できているか |
どれも特別な調査は要りません。要るのは、毎月・全員分・確実に数える手間だけです。
そして実務では、その手間がいちばんの障害になります。30人の病棟で1か月分の並びを全員分点検し、さらに数か月の偏りまで見るのは、勤務表を手で組んでいる師長にとって現実的ではありません。点検されないから、基準は「掲げてあるだけ」になります。
自動計算は、点検を「組む前」に移すための道具
シフトの自動計算は、作成が楽になる道具として紹介されることが多いのですが、定着の文脈では別の意味を持ちます。
手作業の点検は、組み上がった表を後から数える作業です。自動計算では、夜勤は2連続まで・連勤は5日以内・勤務間隔はこの並びを禁止、という基準を条件として先に渡します。点検が「組んだ後の目視」から「組む前の設定」に移る、ということです。目視は疲れていると漏れますが、条件は漏れません。
なお、ここでいう自動計算は生成AIに表を書かせることではありません。その区別は生成AIでシフト表は作れるのかに書きました。
わたしたちが作っている Nafty でも、この考え方で組んでいます。条件は「必ず守る」と「できれば守る」に分けて施設ごとに設定でき、守れなかった条件は日本語の警告で示したうえで計算を最後まで通します。夜勤回数などの個人別の集計は目標値と並べて画面に常時出るので、偏りは月の途中でも数字で見えます。職員の希望はスマホのアプリから集めて、施設側で確認したうえで計算の条件に反映できます。
ひとつ正直に書いておくと、ツールを入れれば定着率が上がる、という話ではありません。勤務表は定着要因のひとつであって、全部ではないからです。ツールが肩代わりできるのは、上の点検表を毎月確実に回す部分です。そこから先の「どの基準を自施設の約束にするか」は、施設が決めることです。
まとめ
離職率11.0%という平均の中で、既卒採用者は16.1%。中途で入った人がいちばん辞めています。
定着の施策を考えるとき、面談や手当の前に、毎月全員に届いている勤務表そのものを点検対象にしてみてください。夜勤の連続、連勤、勤務間隔、偏り、確定の早さ。どれも数えれば見えます。
数える手間が回らないなら、それは根性の問題ではなく道具の問題です。基準を条件として先に渡せる仕組みを使えば、点検は組む前に終わらせられます。