「勤務表作成ソフト」を比べると、どのカタログにも「AIで自動作成」と書いてあります。ところが、現場で毎月かかっている時間の大半は、表を埋める作業そのものではありません。
この記事の結論
看護師の勤務表作成は、決める → 組む → 点検する → 確定して共有する、の4つの工程でできています。ソフトが自動化できるのは「組む」と「点検する」の一部で、「決める」と「確定する」は人の仕事のまま残ります。
だから、ソフトを比べる前に整理しておきたいのは、自施設が組む前に何を決めていて、組んだ後に何を点検しているかです。この記事では、看護の勤務表に固有の条件と点検項目を、この順番で並べます。
勤務表作成は4つの工程でできている
看護師長が毎月やっていることを、工程に分けてみます。
- 決める — 各時間帯の必要人数、夜勤回数の上限、連勤の上限、勤務の並び、ペアの組み合わせ、希望をどこまで通すか
- 組む — 希望を反映しながら、条件を満たすように1マスずつ埋める
- 点検する — 組み上がった表を、夜勤72時間・看護配置・連勤・勤務間隔・偏りの観点で確かめる
- 確定して共有する — 直しを入れて確定し、職員に届ける。変更があれば知らせる
Excelで作っていると、2と3が分かれていないことが多いはずです。埋めながら数え、数えながら埋め直す。1マス動かすたびに、夜勤回数も連勤も数え直しになります。
自動作成ソフトが変えるのは、まずこの2と3の分離です。組むのはソフト、点検の結果を見て直しを決めるのは人、という分担になります。ただし、それが成り立つには、1の「決める」が言葉になっている必要があります。
組む前に決めること — 看護の勤務表で条件になるもの
飲食店や小売のシフトと違って、看護の勤務表には制度と職能団体の基準に由来する条件が多く入ります。組む前に決めておくものを、条件の種類ごとに挙げます。
必要人数(時間帯別・曜日別)
日勤・準夜勤・深夜勤(または日勤・夜勤)ごとに、平日と土日祝で何人要るか。看護配置の届出区分(7対1〜15対1)から逆算した下限があり、その上に病棟の実情で決めた人数が乗ります。「必ず守る」条件の筆頭で、ここが崩れる勤務表は出せません。
夜勤回数の上限と下限
「夜勤は月4回まで」のような施設共通の上限と、「Aさんは3回まで」「Bさんは夜勤なし」のような個人ごとの例外。上限だけでなく下限も要ります。下限が無いと、夜勤が特定の人に寄るか、逆に誰にも割り当てられずに必要人数が埋まらないかのどちらかになります。
夜勤専従の方がいる場合は、月平均夜勤時間数の計算から除外される区分(月16〜144時間)に収まっているかも、あとで点検する対象になります。
連勤の上限
「連勤は◯日まで」という法律上の上限は、2026年8月時点で存在しません。労働基準法が決めているのは休日の与え方であって、連勤日数そのものではないからです。一方で、日本看護協会のガイドラインは連続勤務を5日以内にすることを推奨しています。
つまり、何日で切るかは施設が決めることです。決めた数字は、勤務表を組むときの条件になります。決め方の考え方は、連勤は何日まで組んでいいのかで4つの層に分けて整理しました。
勤務の間隔と並び
三交代で定番の「日勤 → 深夜勤」という並びは、勤務計画表の上ですでに勤務間隔が8時間を切っています。勤務間インターバルは制度の話として語られますが、点検する場所は勤務表の並びそのものです。
「夜勤明けの翌日には夜勤を入れない(中1日空ける)」のような間隔の条件と、「準夜勤の翌日は深夜勤」「夜勤入りの翌日は明け」のような並びの条件は、別の種類の条件として決めておきます。2交替と3交替で変わるのは、主にこの並びの部分です。
組み合わせ(ペア・リーダー・新人)
「この2人は同じ日の夜勤に入れない」「新人は先輩と同じ日に入れる」「リーダー役職の人を日勤に1人以上」「ベテランが0人の日を作らない」。看護の勤務表で最も施設ごとの差が出る条件です。
こうした条件は、必要人数のように数字1つでは表せません。誰と誰を、どの勤務で、何人以上、という形で言葉にしておく必要があります。
希望をどこまで通すか
希望休と希望勤務は、職員から届いた時点では「希望」であって条件ではありません。施設が確認してから条件に入れる、という手順を決めておかないと、希望が必要人数とぶつかったときに誰も判断しないまま表が崩れます。
「必ず守る」と「できるだけ守る」を分ける
ここまでの条件を全部「必ず守る」にすると、たいていの月は解がありません。在籍人数が必要人数ぎりぎりの病棟では、必要人数と夜勤回数上限と希望休を同時に満たす組み方が存在しない、ということが普通に起きます。
だから、条件には強さの区別が要ります。必要人数は必ず守る、夜勤回数の上限も必ず守る、勤務間隔と連休はできるだけ守る、といった分け方です。この区別を先に決めておくと、「満たせない月」に何を緩めるかの議論が短くなります。
条件を解く仕組み(ソルバー)がなぜこの区別を必要とするかは、生成AIでシフト表は作れるのかで仕組みから説明しています。
組んだ後に点検すること — 5つの項目
組み上がった表を、何の観点で確かめるか。看護の勤務表で外せないのは次の5つです。
1. 夜勤72時間ルール(月平均夜勤時間数)
看護師・准看護師の月平均夜勤時間数が72時間以内か。式は単純ですが、つまずくのは分母に誰を数えるかです。夜勤専従の方と、夜勤が月16時間以下の方は分母から除きます。2つの病棟をかけもちしている方は、その割合で計上します。
月末に集計して初めて超過が分かると、その月はもう直せません。月の途中で確かめられるかどうかが、点検の実効性を分けます。分母の考え方は夜勤72時間ルールは、誰を分母に数えるのかにまとめました。
2. 看護配置と加算(様式9)
届け出ている看護配置(7対1〜15対1)を、その月の勤務実績で満たしているか。加算の要件も同じ表から点検します。
ここで注意したいのは、様式9に要るのは予定ではなく実績で、しかも勤怠の打刻データをそのまま使えるわけではない点です。様式9の勤務時間は、施設が決めた夜勤時間帯の枠で切り、病棟ごとに配賦した時間です。残業は入れません。勤怠管理システムがあっても様式9が自動で出てこない理由は、勤怠管理システムがあれば、様式9は出せるのかで整理しています。
3. 連勤の長さ
決めた上限(たとえば5日)を超える連勤がないか。紙やExcelなら、1人ずつ31日分を横に追って数える作業です。条件として登録できるソフトなら、組むときに守られ、手で直したあとも超えた日が示されます。
4. 勤務間インターバル
「日勤 → 深夜勤」のように、勤務間隔が極端に短い並びが残っていないか。制度が11時間を目指している一方で、三交代の標準的な組み方がその半分近くになっているのは前述のとおりです。点検の仕方は勤務間インターバル11時間を、勤務表の上でどう点検するかに書きました。
5. 偏り
夜勤回数・連勤・土日勤務が、特定の人に寄っていないか。これは法令の点検ではありませんが、定着に直接効く項目です。2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%、既卒採用では16.1%です。面談や手当の前に、毎月全員に届く勤務表そのものを点検する、という考え方を看護師の定着を、勤務表の側から考えるで整理しています。
点検を「組んだ後」から「組む前」に移す
5つの項目を並べると気づくことがあります。1〜4は、条件として先に登録できるものばかりです。
夜勤回数の上限、連勤の上限、勤務の間隔と並びは、組む前の条件として入れておけば、組み上がった時点で満たされています。点検は「違反を探す作業」から「満たせなかった日を確認して、どの条件を緩めるか決める作業」に変わります。
これが自動作成の本当の価値です。作成時間が短くなること自体より、点検が組む前に移ることで、組んだ後に見つかる直しが減ることのほうが、月をまたいで効いてきます。
残るのは5の偏りと、2の届出との照合です。偏りは個人別の回数の上限・下限で抑えられますが、最後に表を眺めて「今月はこの人に寄ったな」と気づくのは人の目です。届出との照合は、様式9まで同じデータで出せるかどうかで手間が大きく変わります。
ソフトを選ぶときに、この記事の順番で聞く
比較検討するときは、機能一覧ではなく、この記事の工程の順に聞くと差が見えます。
- 決める: 自施設の条件(ペア、リーダー配置、2交替/3交替の並び)を、そのままの言葉で登録できるか。「必ず守る」と「できるだけ守る」を分けられるか
- 組む: 全部は満たせない月に、どの日がなぜ満たせないかまで分かるか。それとも結果だけが出るか
- 点検する: 手で直したあとに、条件の点検がもう一度効くか。夜勤72時間を月の途中で確かめられるか
- 確定して共有する: AIの変更が承認なしに反映されないか。職員への配布と希望の回収がスマホで完結し、紙とも併用できるか
営業担当にそのまま聞ける形にした7つの質問は、シフト自動作成ツールの選び方にあります。
Naftyの場合
わたしたちが作っている Nafty では、この記事で挙げた条件を「必ず守る」か「できるだけ守る」かを選んで登録し、その月の勤務表の骨組みをAIが組みます。満たせない日は理由つきで示され、手で直したあとも全部の条件を点検し直せます。夜勤72時間と看護配置は月の途中で確かめられ、確定したシフトから令和8年版の様式9(Excel)を作成できます。
設定できる条件の一覧と設定例はAIシフト作成のページに、様式9の対応範囲は様式9のページにまとめてあります。
ただし、上限を何日にするか、どの条件を必ず守るかを決めるのは施設です。Naftyができるのは、決まった条件を守る側の作業と、満たせない日を示すところまでです。
まとめ
看護師の勤務表作成は「決める → 組む → 点検する → 確定して共有する」の4工程です。 ソフトが自動化できるのは組むことと点検の一部で、決めることと確定することは人の仕事のまま残ります。
組む前に決めるのは、必要人数、夜勤回数の上限と下限、連勤の上限、勤務の間隔と並び、組み合わせ、希望の扱いです。 全部を「必ず守る」にすると解が無くなるので、強さの区別を先に決めておきます。
組んだ後に点検するのは、夜勤72時間、看護配置と様式9、連勤、勤務間インターバル、偏りの5つです。 このうち4つは条件として先に登録でき、点検は「違反を探す」から「満たせなかった日を確認して緩め方を決める」に変わります。
ソフトを比べるときは、機能一覧ではなく、この工程の順に聞いてください。差が出るのは「組む」の速さではなく、その前後です。